Health
2024.11.8

江戸時代のセルフメディケーションに学ぼう

江戸時代のセルフメディケーションに学ぼう
これは、江戸時代中期に浮世絵版画として制作された美人画です。1700年半ばからこのような色刷りの浮世絵がたくさん刷られて販売され、人気がありました。 今回は、ちょっと変わった江戸時代の浮世絵をご紹介したいと思います。
今から170年ほど昔の人たちは、健康への関心が高くて、体の仕組みについての知識もしっかり習得しており、どうしたら元気に暮らせるかを追求していました。 江戸の健康ブームには、現代の私たちにも通じるヒントがたくさんあるようです。

浮世絵で広まる
健康キャンペーン!

下の画像をご覧ください。ちょんまげを結い、あぐらをかいて酒を飲む男の目の前には、大徳利と鉢に盛られた尾頭付きの魚に煮物らしき料理が見えます。
これは、江戸時代後期に刷られたカラー刷りの浮世絵版画。タテ50cmほどのサイズの「引き札」と呼ばれるもので、今でいう広告チラシですが、当時の浮世絵はテレビCMやSNSのような役割も担っていました。

この浮世絵版画のタイトルは、『飲食養生鑑(いんしょくようじょうかがみ』といいます。1850年(嘉永3年)前後の作品で、江戸後期の著名な浮世絵師である三代歌川豊国(歌川国貞とも)の作とされています。
タイトルである『飲食養生鑑』は“健康な食生活の手本”のような意味であり、その序文には「凡そ、人間の貴人高位というも下賤の身も、又賢も愚なるも、腹の中に備えたる臓腑此のごとし」とあります。“身分や頭の良さに関係なく、ヒトの体に備わっている内臓はこのようになっている”ということですね。

絵の周囲にびっしり書き込まれた文章を詳しく読んでみると、肺や心臓、脾臓、胃、肝臓、胆嚢、小腸、大腸、腎臓、膀胱などの臓器の役割が詳しく解説されています。
さらに、男の体内ではガリバー旅行記のように、小さなキャラクターたちが、呼吸や食べものの消化吸収のために働いていて、「食べ過ぎは困る」などのセリフがマンガ的に描かれています。 驚くべきなのは、この時代に、体内の臓器の名称や機能について一般向けに図解されたチラシが出まわり、庶民が目にしていたという事実です。 レントゲンもCT検査もなかった時代に、なぜこのように詳細な図解が可能だったのでしょうか。

江戸時代中期には、
すでに生活習慣病が!

この図が刊行されるより80年ほど前のこと、オランダ医学を学んでいた医師である杉田玄白と前野良沢、中川淳庵らは、 ドイツ人医師クルムスが書いた解剖学事典のオランダ語版『ターヘル・アナトミア』を入手し、読んでいました。
1771年(明和8年)、彼らは処刑された罪人の腑分け(解剖)に立ち会いますが、初めて目にした体内のようすが『ターヘル・アナトミア』の臓器の図解どおりであったことに驚き、 この事典を日本語に翻訳することを決意したのです。そして約4年の翻訳作業を経て、1774年(安永3年)に日本語版の『解体新書』が出版されました。

江戸時代の初期には、庶民は精米していない米を主食に、旬の野菜と魚介類、海藻などをおかずにした質素な食事をしていました。 特に農村部では、飢饉や天災のために人々の生活が苦しい時期も長く続いたのです。
しかし、1700年代になると、都市部では町人たちの経済活動や娯楽が盛んになり、食べ過ぎや飲み過ぎ、偏食による肥満や糖尿病——今でいう生活習慣病が問題にされるまでになりました。
なんだか……現代の私たちと変わらないですね。

体内の様々な様子が描かれていますが、食べ過ぎや飲み過ぎに関係のある”胃と脾臓”の図に何と書かれているか紹介します。
胃と脾臓の図には、食べたものを消化吸収するために、必死で働く人たちが。
「こんなに骨折っても、平気の平左衛門どのには困るぞ」「少々臭くも、ガマンしてやれやれ」などとぼやくセリフが書かれています。

170年前の江戸人たちに
健康の心構えを学ぼう

ちょうどこの頃の日本は、戦争もなく平和な時代が続いて大いに発展しました。 江戸の人口は100万人を超え、パリやロンドンをもしのぐ世界有数の大都市になります。 上水道も完備され、教育水準も識字率も高く、子供たちが寺子屋で学ぶための教材もそろっていました。 歌舞伎や浮世絵など、町人たちの文化が急速に発展した時期です。

人々は長生きを求め、江戸では健康ブームが広がりました。
しかし、庶民層が気軽に受診できる病院や健康保険制度などはありませんから、長生きしたければ自分の健康は自分で守らなければなりません。 そこで、いわゆる健康本が流行り、病気の養生法や疫病(感染症)予防、薬の知識や広告などの引き札も数多く出まわりました。

“体の中は一体どうなっているのだろう?”
“食べ過ぎると胃がもたれるのはなぜ?”
といった消化吸収のメカニズムを知りたいという願望も強く、『解体新書』の出版も話題になって、今回ご紹介したような引き札も話題を呼んだのでしょう。

現代の私たちのほうが、医学・医療は江戸時代よりはるかに進歩しているのに、健康管理は医者任せ、病院任せにしていて、案外、自分の体のことを知らないかもしれません。
最後に食道と気管支の部分に描かれている内容をご紹介します。 食道は「飲食道」、気管支は「息通う道」と記されています。
肺では大きな団扇(うちわ)であおぎながら「団扇の骨も折れるが、又、体の骨も折れるようだ。 ちっと休もうじゃねえか」「団扇乱脈だ、なぞと言われちゃ悪いから、何でも骨折ってから休みやしょう」などと言い合う人たちが。

繰り返しになりますが、あらためて私たちもカロリー高め、糖質多めの食生活を反省し、 170年前のご先祖さまから“暴飲暴食や偏った食生活は体によくない”という教訓を学び、自分自身のセルフメディケーションを意識したいものです。

この記事について

・浮世絵で広まる健康キャンペーン!
・江戸時代中期には、すでに生活習慣病が!
・170年前の江戸人たちに健康の心構えを学ぼう

『飲食養生鑑(いんしょくようじょうかがみ』(50×37cm)
1850年(嘉永3年)前後の作。江戸後期の著名な浮世絵師である三代歌川豊国(歌川国貞とも)の作品とされている。
内藤記念くすり博物館蔵。

構成/文 吉本 直子
医療・健康ライター。一般向けの健康書籍や雑誌記事の執筆をはじめ、医師向けの学術誌制作にも携わる。得意なジャンルは皮膚科学全般および美容皮膚科学、婦人科学、漢方医学、栄養学など。ライフワークは医学学会に参加することと、歌舞伎と浮世絵から江戸時代の人たちのセルフメディケーションを学ぶこと。

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