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歌舞伎役者は肌荒れしないの?

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歌舞伎役者は肌荒れしないの?

2025年6月に公開された映画『国宝』。
あっという間に大ブームを巻き起こし、多くの人が鑑賞しています。
印象的な場面のひとつに、主人公の喜久雄が楽屋で化粧をするシーンがありました。
それにしても、歌舞伎役者は毎日、白塗りの厚化粧をするのにお肌がきれいな人が多いという印象ですが、何か秘密があるのでしょうか。

歌舞伎役者は自分でメイクをする

任侠の世界に生まれ育った主人公・喜久雄は、組同士の抗争で父を失い、歌舞伎役者の弟子となり、やがて美しい女方の役者として舞台に立ちます。
『国宝』は多世代の人たちの共感を呼び、普段はあまり映画を見ない人や、歌舞伎を観たことがない人までも魅了しました。これをきっかけに、「本物の歌舞伎を観てみたい!」と、初めて劇場へ足を運ぶ人も急増しています。 白塗りの化粧をした女方の役者が、華やかな衣裳に身を包んで艶やかに舞う姿は、思わずため息が出るような美しさです。

実は、歌舞伎のあの独特なお化粧は、ヘアメイク専門のスタッフではなく、子役以外は役者自身が自分でしています。 歌舞伎の世界では、舞台メイクをすることを「顔をする」、メイクをオフすることを「顔を落とす」と表現します。

『国宝』でも、師匠の代わりに大役を勤めることになった喜久雄が、緊張のあまり手が震えて化粧ができなくなり、御曹司の俊介が手助けするシーンがありました。
それにしても、実際の歌舞伎公演では1日にいくつもの演目が上演され、ひとりの役者が全く異なる3役、4役を演じる、などということも珍しくありません。 役者たちは、短い幕間(まくあい)の間に化粧を落として、速やかに次の役の化粧をし、鬘(かつら)を付けて衣裳を着るのです。

秘密はベースメイクの「鬢付け油」

「そんなに化粧したり落としたりを毎日繰り返して、肌荒れしないの?」と心配になりますが、テレビのバラエティ番組などで見かける歌舞伎役者たちのほとんどは、とてもお肌がきれいです。
いったい、どんなメイク方法とスキンケアをしているのか、気になりますね。
新作歌舞伎は例外ですが、江戸時代から演じられている古典歌舞伎の場合、化粧に使用する色は基本的に白・黒・赤の3色です。 江戸時代には照明がありませんから、太陽光とロウソクの光だけが頼りです。
薄暗い芝居小屋の舞台で、少しでも役者の表情がよく見えるよう、白粉(おしろい)で真っ白に塗り、目張りや口を黒や赤のラインでくっきり描いたのです。

この白塗りの化粧の大事なポイントが、化粧下地=ベースメイクに使われる「鬢(びん)付け油」。植物性の油脂とロウなどを混ぜ合わせた固い油です。
これを手にとって体温で温めてやわらかく伸ばしてから、顔全体に塗り広げます。そして、役柄に応じた色の白粉を溶いて刷毛で塗り、粉白粉をはたき込みます。 役柄によっては、衣裳から出ている手先や足も塗ります。特に、衣装の衿(えり)を大きく抜く女方は、首や衿元、背中の方まで白粉を塗らなければなりません。

「鬢付け油」でしっかり下地をつくることで、重たい衣裳を着て激しく動き、舞台の上で大汗をかいても、化粧がくずれにくくなるのです。
やはり、化粧の濃さは違っても、ベースメイクは大切だということですね。私たちも、しっかり保湿して肌を整えてからメイクをすることが、化粧くずれを防ぐポイントかもしれません。

役柄の性格を表現する「隈取」

ちなみに、白塗りをした顔や手足に、赤や黒などのラインを施す「隈取(くまどり)」も歌舞伎メイクの特徴でしょう。 「隈取」は、筋肉や血管を強調して、力強さを表現するための工夫です。 顔の「隈取」は、色によって役の性格や芝居での役割が表現されています。
たとえば、赤の隈は若々しさや正義、力強さを、青隈(あおぐま)は高位の身分の悪人や怨霊などを、茶隈(ちゃぐま)は人間に化けている妖怪などを表します。
意味を知っていれば、歌舞伎を観る際の理解が深まりそうです。

メイク落としに欠かせないお風呂



ひとつの演目が終わると、役者たちはクリームタイプやジェルタイプのクレンジング剤をたっぷり使って白粉となじませて落とし、洗顔してから次の役の顔をつくります。
そして終演後、役者たちは顔や手足の白塗りを落としてから、必ずお風呂に入ります。毛穴まで入り込んだ白粉は、湯船に浸からないと落ちないからです。 そのため、歌舞伎専用の劇場の楽屋には、必ずお風呂があります。
その後は、各自が愛用するアイテムで保湿をするのは、私たちと同じです。

私たちも、役者たちを見習って、お肌をゴシゴシこすってメイクを落とすのではなく、クレンジング剤をたっぷり目に使い、ファンデーションとやさしくなじませてから落としましょう。 ていねいなクレンジングは、肌トラブルを予防するポイントです。
そして、1日の終わりには、シャワーだけですませるのではなく、ぬるめのお湯に浸かり、毛穴の汚れを浮かせてオフするとともに、全身の保湿を。

数百年もの間、受け継がれてきた歌舞伎役者たちの化粧法。私たちもみならって、日々のスキンケアの基本を忠実に守り、きれいなお肌をキープしたいですね。

この記事について

・歌舞伎役者は自分でメイクをする
・秘密はベースメイクの「鬢付け油」
・役柄の性格を表現する「隈取」
・メイク落としに欠かせないお風呂

構成/文 吉本 直子
医療・健康ライター。一般向けの健康書籍や雑誌記事の執筆をはじめ、医師向けの学術誌制作にも携わる。得意なジャンルは皮膚科学全般および美容皮膚科学、婦人科学、漢方医学、栄養学など。ライフワークは医学学会に参加することと、歌舞伎と浮世絵から江戸時代の人たちのセルフメディケーションを学ぶこと。